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頭の中に何度も思い描いた、強くて優しい、美しくて優雅な『お姉様』。そんな『お姉様』が、ずっとほしかった。
ひとめで、もう一瞬で、ずっと憧れていた自分の中の『お姉様』と、昨日突然に現れたキレイな女の人がぴったりと重なったから。だからどうしても、綾音のことをこう呼びたかった。『お姉様』と。
綾音は困ったような微笑を浮かべ、ほぅと息をもらすと、更紗の頭にそっと手を置いた。
「どうしてそうしたいのか、私には幾許もわからないけれど」
さらり、と。綾音は更紗の髪を梳いた。
「あなたがそうしたいのなら、構わないわ」
そして、優しく微笑んだ。
「ぅ……。ありがとう、ございます」
「ふふ、どうして泣くのかしら。ほんと、おかしな子ね」
「だって、だって……。綾姉様ぁ」
突然泣きだした更紗に眉をひそめることもなく、綾音は更紗の頭を柔らかく撫で続けた。
その光景は微笑ましくて美しいのだが、正直なところ、どこか近寄りがたい雰囲気を放出していた。
「……あの、お二人さん。もうすぐ授業始まりますよ」
少し遠くから様子を眺めていた恵の声と同時に、午後の授業の開始を促す予鈴が鳴り響いた。
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