二 おーい、そこのおねえさーん

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 放課後。更紗は部活へ向かう恵を見送ると、自分も部活動をするべく、カバンを持って席を立った。  部室を目指し、のんびりと渡り廊下を歩く。  何気なく視線を動かした更紗の顔に、突然笑顔が花開いた。  視線の先にあるのは、この学校の生徒とは異なる目立つ黒衣。それと、腰まで伸びる長い黒髪。間違えるはずがない。 「綾姉様っ!」  更紗は全力で駆けよった。 「あら、更紗。奇遇ね」  綾音は更紗を認めるなり、にこりと微笑みを浮かべた。 「はい! とっても奇遇ですっごい嬉しいです!」 「あらあら、ふふ……」  よくわからない日本語を使う更紗を、綾音は優しく見守った。 「あ、あのっ。綾姉様は、なにをなさってるんですか」 「校内をね、散策しているのよ」 「そうなんですか。あっ、でしたら、わたしがご案内します。いえ、ご案内させてくださいっ!」  綾音にとって今日は初めての登校日であることを思いだし、更紗は案内役を勇み込んで買ってでた。 「まぁ、それは助かるわ。でもよろしいの? どこかへ向かおうとしていたのではなくて」  言われて、はっとする。更紗は部室へ向かっていたのだ。 「で、でも! すぐに終わりますから」 「そうなの。でしたら、案内をお願いしてもよろしい?」 「は、はいっ!」  更紗は本当に嬉しそうに頷いた。
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