二 おーい、そこのおねえさーん

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 やがて、並んで歩くふたりにボランティア部と札がかけられた扉が見えてきた。 「あ、ここです。ゴメンなさい。餌をやるだけなんで、すぐに終わりますから。綾姉様はここで待っていてもらえますか?」 「ええ、わかったわ」  更紗は綾音に会釈すると、背を向けて扉に指をかけた。  部室には更紗と同じ一年生でボランティア部の男子、飯島康夫(いいじまやすお)が先に来ていて、紅い瞳のゴールデンハムスターに餌をあげていた。 「飯島くん、ゴメンね。遅くなっちゃった」 「……ん」  飯島康夫は振り返らずに、口も開かずに答えた。 (カンジ悪いな。相変わらず)  もちろん声にはださない。  更紗は自分の受け持ちである、セキセイインコのぴぃちゃんとミドリガメのろっきーに餌を与えた。  ちなみに、ゴールデンハムスターは名をハム男と言い、そこにいる飯島康夫が担当だ。  更紗は鳥かごと水槽を軽く掃除して、飯島康夫に声をかけた。 「飯島くん、わたしの分終わったから、帰るね」  ハム男の様子を見たかったが、飯島康夫がいるのでやめておいた。 「……ん、わかった」  飯島康夫は首だけ動かして更紗を見ると、またハムスターを見下ろすことを再開した。  更紗は別れの言葉を述べて、部室を後にした。 (飯島くん。ケガでもしたのかな……)  ちらりと見えた横顔には絆創膏が貼られていて、少し気になった。
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