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「綾姉様。お待たせしました。……って、あれ?」
更紗は廊下にでた。だが、そこに待ち望んだ綾音の姿はなかった。
「……ねぇ、さま?」
途端に心細くなる。
退屈して、もしかしたら愛想をつかされて、どこかへ行ってしまったのだろうか。頭の中に沸いて出た言葉が、更紗の心を不安にさせた。
「……ぇさま。あやねぇさまぁ」
思わず泣きそうになってしまって、更紗は天井に顔を向けた。
「あらあら、そんな迷子のような声をだして、どうしたの?」
顔をおろすと、そこには綾音の姿があった。
「ねぇ……さまぁ」
待ち焦がれた声が、顔が、すぐそこにある。今度は嬉しくて泣きそうになった。
「綾姉様ぁ。どこに行ってたんですか」
更紗は心底安心して、気の抜けた声をだした。
「ええ、ちょっと、花を摘みに、ね」
綾音はどこか恥ずかしそうに、そっとささやく。
「花? ですか」
きょとんとする更紗。綾音はその額を人差し指でちょんと押した。
「厭な子ね。お手洗いの隠語よ」
「あ……、ああ――」
意味がわかるや、そこまで言わせてしまったことが急に恥ずかしくなって、更紗は顔を俯けた。
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