第一章・続3

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だが、岩元は金の管理はしていても、騙した客の名前などは一々覚えて居る訳がない。 「それがどぉ~したっ。 ニュースで詐欺の事なんか良くやってる。 だっ、まっ、さっ、れっ、るっ、そのババアが悪いんだよっ!。 俺等には、そんな頭の悪いババアの事なんか、なぁ~んの関係も無いねっ!!」 余裕のある木葉刑事に苛立ったのか、岩元が床に唾を吐いた。 「おいっ」 声を荒げる岩元が勢い付いてか、飯田刑事が鋭い言葉で窘める。 だが、岩元の態度に全く動じて無いのは、木葉刑事の方。 「ふぅ~ん、あっそ。 それならば・・生きてまた詐欺を働くならば、調べた方がイイかもね」 「あぁ? 何だそりゃっ?!!」 喋る岩元が、どんどんと増長して来る。 興奮させるとこの岩元は、何をするか解らない。 木葉刑事以外の刑事や職員は、張り詰めた緊張感を持ち始める。 だが其処に、木葉刑事は遂に或る事実を語る。 「あのさ~、岩もっちゃん」 岩元の事を友達の様に、渾名の様に呼んだ木葉刑事。 そんな事を刑事に言われた岩元は、いよいよ苛立ち目を尖らせる。 「何だ、バカデカっ! 気安く呼ぶんじゃねぇぞっ!!」 と、机を叩いて立ち上がった。 郷田管理官も、これ以上の取り調べは危険と感じた時だ。 岩元の怒声にも全く態度を変えず、爪を弄る木葉刑事は世間話のように語る。 「実は、さっきさ。 組対課から二課に移った刑事から、ちょろっと聴いたんだけどね。 墨田区でお宅等に騙されたその老婆って、関東最大の暴力団組織“葉山会”のトップの、あの三橋組長の母親なんだってサ~」 衝撃的な事実が告げられた時。 殺気すら孕んで立ち上がった岩元が、そのままに固まった。 そして、言葉を発せずに固まること、約1分後。 「な・・はぁ?」 いきなりの事で岩元は、意気の上がった態度が空回りしてしまい。 最大限まで高まった敵意を急速冷凍されて、自分で自分をどうして良いのか解らなく成る。 然し、言った木葉刑事の態度は、全く変わらない。 「岩もっちゃんが、今回の被害者を殺す様に指示した頃さ。 騙された事に気付いた墨田区のお婆さんは、息子の三橋組長に遺書を残して、家族に謝り自殺したってさ」 木葉刑事の話す内容には、マジックミラーの向こうでもざわめきが起こる。 だが、それは岩元とて同じこと。 ちょっと前まで、今にも木葉刑事へ殴り掛かる気配すら窺えた岩元が、急に顔色を変えると…。
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