第一章・続3

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「お・おい、俺がサツカンを殺す様に言ったからってよ。 そっそそ、そんなうっ、嘘を云うなよ。 そんな・・そんなバカな…」 あの岩元が、一人でコントでも演じるかの様に独り言を重ね、嘘だと笑おうとする。 だが、態度や雰囲気はそのままに、木葉刑事の追撃は続く。 「あの三橋組長って人の家は、サ。 親や兄弟に親戚も含めて、警察やら財務やら文部なんか省庁に勤める人が多い、所謂の公務員系一家らしいじゃん。 その家の(しがらみ)を嫌ったあの人は、ほぼ勘当同然でその道に入ったのは、世間でも有名だったらしいけど。 唯一、律儀で義理堅い母親の事だけは、勘当されても大切にしてたみたいね~」 木葉刑事の話を聴く岩元の顔が、どんどんと怯えて行く。 その変わり様は、間近に居る飯田刑事が一番に良く解る。 (話がハッタリじゃ無いなら、こりゃあ岩元(コイツ)もヤバいぞ) さて、木葉刑事は爪を軽く擦りながら。 「あの墨田区で、自分の姉に飲み屋をさせる為にそっと金を出したのも。 そのお母さんの老後を守る為だったらしいよ~」 其処まで聴いた岩元の顔からは、既に毒気が全て抜けていた。 「ちょっと待て、ほっ・ほ・ホントに・・死んだのか?」 確かめ様と机に身を張り付けて、木葉刑事に迫って聞き返す岩元。 適当な態度で頷く木葉刑事。 「らしいね。 然も、そのお母さんは、岩もっちゃんのしてた様な詐欺の遣り方を、お母さん成りに自分の息子で在る三橋組長に批判して、ね」 いよいよ己の置かれた状況が、捕まった事など些細に思えるほどにヤバいと感じたのだろう。 眼が泳ぎ、口を開きっ放しにする岩元。 だが、彼を見ない木葉刑事は、更に続けて。 「朝の組対課の方からの情報だとね」 と、言えば。 「何だっ?」 と、食い付く岩元で。 二人の様子は、既に刑事と容疑者では無い。 「母親の葬儀や初七日を終えた三橋組長が、独自に構成員を動かして初めてね。 お母さんを騙した詐欺グループの特定を、本気で始めたみたいッスよ」 「マジかよっ。 嘘だ、そんなの嘘だろっ? な? な゛っ? 今回の事件も含めて、全部事実を話すからっ! 嘘だと言ってくれっ、な、刑事さんよっ」 木葉刑事の肩に手を掛け、声をまた強くして言う岩元。
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