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岩元の態度を見兼ねた飯田刑事が、
「離れろ。 いいから座れっ」
と、岩元を引き剥がす。
だが、それでも全く彼を気にしない木葉刑事。
「一応、岩もっちゃんも同じ組織形態の一員だから、こっちより内情はよぉ~く知ってるって思うけどサ。 あの方々の組織力と情報収集の網は、警察と同じか、それ以上だ。 今は、あの遠矢の一件で、そっちの生きる裏側の世界は混乱もあるからね~。 最初は、我々に手下や遣いっぱしりを捕まえられたとしても、そのうちに主犯の岩もっちゃんを特定すると思うよ」
木葉刑事の話を聴く岩元は、‘嘘だ’と繰り返すままに泣き出して震え始める。
葉山組の三橋組長と言えば、その豪腕と古臭い一部の義理人情を以て、一代で総長とも言えるトップに登った人物。 手下の面倒見は、非常に大らかで立派だが。 反面、敵と認めた相手は、どんなやり方だろうが必ず潰すと云う。
「な・なぁ、なぁっ、嘘だろお゛ぉぉっ?」
態度が一変して、下手≪したて≫の物言いにて泣いて聴いて来る岩元。
だが、彼に顔を向けずに居る木葉刑事も、その安穏とした中には南極の凍えた風よりも冷めた感情を秘めて居て。
「ふっ、お宅さんもざけんなさいよ。 そっちも一応は、組織の幹部なんだから。 手下でも動かして、御自分で調べたら如何で?」
と、岩元を突け放す。
木葉刑事が全く自分を関知する気すら無いと察する岩元が、泣き顔のままに固まった。
其処へ、軽く顔を動かし、視界のほんの片隅に岩元を入れた木葉刑事が。
「もう、お宅の‘嫌いな警察’の遣り方は、十分に知ってるだろうけど。 お宅を送検して裁判が始まったら、刑事なんてな~んも出来ないから。 それに悪いが、警護課の刑事は岩もっちゃんの事が大嫌いだし。 もっと云うなら、警察全体が大嫌いなんだよね~。 偉そうに御託を並べて人を騙したり殺したりするんだから、自分の身は自分で守ってね。 全部、自業自得だからさ~」
こうサバけた物言いをするのみ。
その様子を間近で見る飯田刑事も、調書を取る為に座る警察官も。 いや、マジックミラーの向こう側に居る一同が、キレ始めた岩元より今の木葉刑事が怖いと感じた。 所轄の刑事達は、あの普段からヘラヘラして居て刑事らしく無い木葉刑事が。 まるで、岩元を死刑に処する様に覚めた態度をする事に驚き。 里谷刑事他、班の同僚も木葉刑事の本気の片鱗を見た気がした。
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