第一章・続3

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彼を取り調べをする役目に指名した郷田管理官に至っては、 (木田一課長があの木葉刑事を特別視するのが、何となく解ったわ。 何だか、私より場数を踏んでるみたい…) 周りから悪い噂を流されてもここまで刑事を続けて来た彼には、その経験に相応しい度胸や感性が在るのだと察した。 岩元は、木葉刑事や飯田刑事に、助けてくれと懇願し始める。 だが、彼を全力で助ける助ける義理は警察にも無い。 “少しでも長く生きたいなら、まだ言って無い罪でも告白したらどうか?” 木葉刑事はサバサバと言い、飯田刑事も無言を貫く。 二人して取調室を去るのは、岩元への休憩の時間が迫ったためだった。 然し、その同時刻だ。 都内に在る閉店しているキャバクラの店内にて。 岩元の居る組の組長と、問題の三橋組長が顔を合わせていた。 やや朴訥とした印象の年配男性と思しき三橋組長は、中堅企業の部長の様な雰囲気だが。 その眼差しの中には、有無を云わさぬ気迫が在る。 “岩元以下、直接詐欺に関わった者を殺すか。 此方に好きにさせろ” と、相手の組長に迫る三橋組長。 これは、事実上の脅迫だ。 むざむざと相手の意見を呑みたく無いのは、人間なら当然。 だが、母親の残した遺書を見せた三橋組長は、 “お宅の凌ぎやシマに手は出さん。 だが、呑めないならば、容赦なくやる。 大様さんには、もう話が通ってるから。 組を潰すか、金蔓を潰すか、どちらか決め為され” と、選択肢を申し出した そんな事が外で起こって居るなど全く知らない岩元。 また、留置場に戻されてからは、警察に対する罵詈雑言を浴びせ続ける。 彼には、後どれだけの余命が遺されているのか。 それは、解らない。 この日は、朝から日柄も良く。 あの遠矢の関わる事件で、大阪と京都の府議会議員が警察に呼ばれて事情聴取を受け。 一方の東京では、麻薬の売人やら売春の斡旋を受けていた者の逮捕がTVに映る。 色々と忙しい警察全体だが。 あの‘首なし・バラバラ殺人事件’の記憶も薄らぎ始め、警察らしい日常が戻ったと云う雰囲気だった…。 一方、呑気な木葉刑事は、建て前として郷田管理官から情報の共有化を怒られたり。 一方、ミスを取り返せると意気込む迅ほか二課の刑事達は、詐欺事件の全容解明に奔走する。 消えた広縞の悪意を持った幽霊の脅威は、まだ都内の何処にも無く。 木葉刑事の平穏は、まだ続きそうだった…。
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