第一章・続3

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       3 5月下旬。 岩元の、老婆殺人に対する殺人での共同正犯を送検した木葉刑事の属する篠田班は、其処で事件を所轄にバトンタッチした。 警視庁としては、二課が過去まで遡って余罪を喋る岩元の証言を元に、余罪を調べる。 他の新たに起こる事件に対応するため、本件の調べが終わった時点で警視庁は手を引いておくらしい。 そして、その日は木葉刑事が2日の連休後、本庁に出勤して来た朝だ。 やや値段の高い、クリスピーなウエハースでアイスを挟んだ一品を余計に一つ買って、班の部屋に在る冷凍庫に入れた。 忘れた頃に引っ張り出して食べるのは、回り道をする喜びに似ている。 だが、自分のデスクで、班長と話し合いながら食べて居ると…。 「あ゛~~~暑い、まだ5月よ゛ぉ~」 廊下から里谷刑事の声がすると。 「仕方無いよ~、もう6月目前だしさ~」 と、如月刑事の声がして。 「女性が薄着に成れる夏が目前だ。 喜ばしい事じゃないか」 と、市村刑事の声も。 篠田班長は、クーラーの利いた部屋で。 「お~お~、暑苦しいのが来たぞ」 毒口を吐く。 一方、温いお茶でアイスを食べる木葉刑事は、もうアイスに夢中で在ったが…。 ガバッとドアが開くなりに。 「あ゛ーっ、アイス食べてるっ」 喚いた里谷刑事がマッハの勢いで木葉刑事に近付くと。 「一口ぃ~、御慈悲を~」 目をウルウルさせる里谷刑事を、口を開けてアイスを入れようとして止めた木葉刑事は、 「ウザいッスよ」 迷惑を訴える半眼を向けるのだが…。 「木葉サマ~、一口ぃ~」 里谷刑事には、その眼に因る訴えが効かない。 面倒臭い木葉刑事は、 「冷凍庫に、もう一個在りますが…」 仕方なしに言った瞬間だ。 「買ったぁっ!」 吼えた里谷刑事は、ポケットに入っていた200円とちょっとをデスクに置く。 その途端、如月刑事が。 「チョイ待ちっ! 俺も半分っ!」 と、名乗りを上げる。 此処に、不毛なる‘アイス争奪戦’が始まる。 後から来る織田刑事は、子供の様な争いにて定規まで持ち出し、折半を言い争う二人を見て。 「はぁ、幾ら煩くても、分け合うぐらいは知るウチの子供達の方がマシね」 と、呆れ。 最後に、飯田刑事と八橋刑事が来て、アホらしい折半合戦を見る。 「もう、溶けそうだ」 呟く八橋刑事は、2リットルのスポーツドリンクのボトルをバックから出す。
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