第一章・続3

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通りを行き過ぎた木葉刑事を、後ろから見送る里谷刑事が。 ‐ ふっふっふ、私の苦心のコーディネートだぞ、もっと恥掻け。 ‐ と、ツッコミを寄越す。 それを聴いた迅は、力が抜ける思いがする。 (やっぱり、先輩への弄りか…) 明らかにコスプレの域だと、仕事なのに面食らった。 然し、問題は此処からだ。 どうやって若者達や岩元を逮捕するか…。 アジトが解ったと聴いた捜査本部は、直ぐ様に細い路地を挟んだ反対側の空きビルを借り抑えた。 詐欺の事務所と思しきビルの反対側で、車も入れない路地を挟んだ雑居ビルの二階に、新しいベースを作る事に成った。 処が、劇的な展開の幕開けと成ったのは、少し曇りがちとなった次の日の事。 新たに若者向けのスキニージーンズを穿いて、黒いジャケットを羽織るテレビドラマの主人公的な衣服をする木葉刑事は。 カジュアルなカーゴパンツに長袖と襟の有る黒いシャツを着た迅と二人で、ビルの見張りをする事と成っていた。 その日は、二日続けて来ていた若者達が何故か集まらず。 岩元と黒いスーツ姿の組織の構成員二人のみが、辺りを酷く窺いながらビルの中へ。 木葉刑事も、居間部刑事も、直感的に。 “何で、あの二人だけが? 何か可笑しい” 二人の意見に、外へ出て見張る里谷刑事や市村刑事の班は、 “昨日までに居場所が特定できた若者が新たに詐欺へ向かう方を先に追うべきではないか” と、不満げだったが…。 然し、午後の3時過ぎ。 ビルを専門にする清掃業者らしき三人が、そのビルに向かって行く時。 それを見た木葉刑事は、殺された老婆がその業者を止める様に喚く姿を視て直感が働いた。 ー 此方っ、岩元を監視する木葉。 至急、周辺に張り込む関係捜査員、全員に告ぐ。 現場に突入する。 繰り返す、現場に突入するっ。 ビルへ入る清掃業者を止め、岩元を確保っ! - と、言った。 これには、横に居た迅も、聞いていた里谷刑事や市村刑事も、その耳を疑った。 然し、動き出した木葉刑事が躊躇する迅と応援の刑事3人を伴ってビルへ。 「いきなり今、ビルのクリーニングなどする必要なんか無い。 拠点を変える前に、ビル内に残留する証拠を消す気だっ」 疑問を出す迅へ、木葉刑事はこう言い迅速に動く。 先輩の暴挙に近い行動で、迅も、二課の刑事も、所轄の刑事すら混乱を極めて対処への判断を麻痺させてしまった。
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