我が家にたまごがやってきた。

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 翌日。 昨晩の予報通り冷たい雨の中、私はチラシの施設の中にいた。施設内の例のたまごの生る樹木の前には大勢のこどもたちとその親、よくよく見れば遠くの方に私の上司の姿。せっかくの休日に上司と鉢合わせなんて…ブルブルと肩を震わせ出来るだけ距離を取ろうと数ある樹木の一番端を陣取った。職員の説明によるとたまごの前を通るだけで「これだ!」というものに出逢えるらしい。大体が自分が一番最初に選んだ樹木の中で出逢えるらしいが偶にどの樹木でも逢えない人もいるらしい。出来ればこの樹木で逢いたいものだ。  ふと見上げた樹木の一番低い所にあるたまごに視線がぶつかる。なんとなしにこの子かな、なんて思った。そっと手を伸ばしてたまごを両手で包み込む。あ、温かい。やっぱり生き物なんだな。こんな取り方で良いのかと思いながら意を決して、せーの!ぶちり、と枝からもぎとると職員の人が「おめでとうございます。これでその子はあなたの家族です。分からない事があればいつでも電話して来て下さい。」と育成キットの入った袋をプレゼントしてくれた。見た目はどれも同じ真っ白のたまご。この子はどんな姿で産まれてくれるのだろう。職員の人にちょっとだけ頭を下げて自室への帰路に着いた。雨はいつしか止んでいた。 もぎとる瞬間、私の心は何を願ったのだろう。 「早く君に会いたいよ。」 手のひらの中のたまごがくくっと動いた気がした。
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