たまごの名前

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   ふぅ。 説明書を一通り読み終えると、口から小さなため息がこぼれた。コロンと机の上に横になってるたまごをつんつんしながらまだ何も入っていない透明なケースを眺める。とりあえず、この中で育てるのか。立てて、温めて育てることができるような便利グッズなんてうちにあったっけなぁ~と頭をかきながら憩いの炬燵から抜け出す。まだ春先、夜は床が冷える。ペタペタと爪先あるきでタンスを引っ掻き回すと去年の冬でお役ごめんとなったグレーのセーターを発見。これなら生地も柔らかく温かい、たまごを立たせることなど朝飯前だ。  たまごの前にふたたび腰を下ろすと、持ってきていたハサミでセーターを丁度よい大きさにカットし、味気ないケースの中に敷き詰めた。その中にたまごを立つようにそっと置き、ケース越しに満足そうにほほを緩めた。   「名前はきみが生まれてきてくれたら付けるからね。そういうもんなんだって、」   説明書の最終ページには名前の付け方が記載されていた。たまごの状態で名付けてしまうと、生まれてきた姿に合っていないということもあるので生まれてきてくれたら付けるようお勧めされていた。   はやく、逢いたいなぁ…   ケースの中のたまごは、まだまだ硬い殻の中。二週間後の火曜日がひどく楽しみになってしまった。
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