第四章 葬送行進曲

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「音楽の世界を現実の世界にね……。ヴォルフガングは、残念ながら音楽ではそれはしなかったわ。でも、音楽以外のところではいろいろやってたのよ」 「なんで音楽以外だったんだろうか。それは何?」 「フリーメーソンリーよ」 「ああ……」 ぼくは溜め息のような息をついた。彼女はフリーメーソンリーにぼくを入れたがっていた。だが、ぼくは拒否した。それどころか、彼女までも脱会させようとしたのだ。 「彼は自分の神についても深く悩んでいたわ。つまり、自分にこんな才能を授けた神はどっちなのか。カトリックの神なのか、フリーメーソンの神なのか」 「フリーメーソンリーは宗教団体じゃないはずだが」 「でも、あがめている神はあるわ。それはキリスト教の神も指しているようだけど、……やっぱり、名前が、違うじゃない。まあ、カトリックでは三位一体って言って、ヤハウェもキリストも同じものだとしているけど……」 「何が神だ! 彼女自身がどれだけ苦しんだと思うんだ? 才能はすべて彼女のものだ!」 「だったらあなたは、才能は偶然の産物だと思うの?」 「それは……偶然ではないかもしれない。でも偶然かもしれない。どっちにしても、神がそこに出てくるのはこじつけだ。彼女とぼくはなぜかこうなってしまった。その事実に対しては確かに責任があるから、これからもぼくはやるべきことをやっていくだけだ」 「そうさせたのが神とは思わないの?」                            (P347~355)
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