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「わたしもニッセンも凡人だからよ。あなた昔言ったでしょう? 凡人の務めは、偉人への献身だって」
「いや、あれは……」
「あなたは違うでしょう? あなたまでわたしたちの真似をしていてどうするの? あなたはまだ自分のことが分かってないわ」
スヴィーテンにも同じことを言われた。ここで、またコンスタンツェにまで言われてしまった。ぼくは自分の弱さを憎んだ。
「もう世紀末は終わったのよ? 新しい世紀が始まったのよ。この十九世紀を、自分の世紀にしたいとは思わないの?」
コンスタンツェは確信的なことを言っている。そのことは分かっていたが、どうしてもうなずけない。
「モーツァルトがまだ生きたがっているんだ」
「モーツァルトはモーツァルト、ベートーヴェンはベートーヴェンでしょ。あなたは昔から少しも変わってないわ。ずっと悩み続けたまんま。あの頃の少年のまんまだわ。わたしはずっとあなたを愛してきたけど、このままモーツァルトに取りつかれているようなら、もうあなたのこと嫌いになるわよ」
「!」
「たとえばあなたは、モーツァルトを追いかけ続けて、モーツァルト以上になれるとでも思っているの? あなたにも、誰にも、そんなことは到底無理なのよ。あの人は一つの様式を完全に完成させてしまったの。この世でそれを越えることができるのは、他ならない、あの人自身だけ」
その言葉は、ぼくの胸の奥まで突き抜けていった。そしてさらに彼女は続ける。
「モーツァルトはこれまでの音楽の様式をすべてマスターして正統な音楽で勝負したわ。その結果だけを見て、過去の大家たちの論法をとことん勉強もしてないあなたがどんなにもてはやしても、モーツァルトという結果はあなたには決して越えられない。なぜなら、モーツァルトほどにあなたは音楽の勉強をしていないから」
「!」
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