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「お母さんとは、連絡とったりしてるんですか?」 公園の隣にある公民館の方から、蝉の声が聞こえてきた。 「とってない。 連絡先すら知らせずに、出てっちゃったからね。 哀しかったよ。」 芹岡は缶ジュースを飲み、ため息をついた。 哀しかった。 もしかして、芹岡の"大切な人"はお母さんなのかもしれない。 質問しようとしたところで、 「それより、そろそろ学校行くからまたいつものように遊びに来てよ」 と話を変えられてしまった。 あまり触れられたくないのだろうか。 「もちろんですよ。 芹岡先輩がいないと、学校がつまらなくて。 傷は、痛みますか?」 芹岡の顔を覗くと、大きな手の平で私の頭を撫でながら首を横に振った。 不快感が残りつつも、 「一体、誰がそんなことしたんですか? 芹岡先輩、喧嘩とかしました?」 と真剣な眼差しを向けた。 「喧嘩なんてしてないよ。 正直、俺もよく覚えてない。 だから後ろから誰かにやられたんじゃない? 俺を嫌ってる先輩らにでも。」 向こう側で蝉の声が二匹、三匹とつられるように鳴き始め、だんだんと公園の周りを包み込んだ。 「芹岡先輩を嫌ってる先輩? 心当たりがあるんですか?」 芹岡は私の頭から手を離し、辺りを見渡した。 「うん…、でも分からない。 断定は出来ないし、仕返しするつもりもないけど。」 私も辺りを見渡したが、蝉の鳴く声だけがだんだんと大きくなっていくだけで誰もいなかった。 芹岡を見つめ、 「怖い、ですね。」 と呟いた。
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