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コンクリートの冷たさ。 口の中に(にじ)む、血の味。 ジンジンと痛む、身体のあちこち。 「生きてる…?」 重い(まぶた)を開けた。 辺りは暗闇になっていた。 芹岡達の姿はもう無い。 「くそ…! なんで… 生きてる… の…」 (かす)れた声で言い、目に大粒の涙が溢れた。 生きていくうちに、芹岡達からあと何回リンチを喰らわなければいけないんだ。 それなら、死んでしまえば良かった…。 芹岡からの集団リンチは過去二回あった。 あうたびに失っているものが、今、分かった。 それは、生きている意味。 胸が苦しくなった。頭の中が雑音でうるさい。 俺はしばらくそこで泣いていた。 家に着いた時には既に、22時を回っていた。 古いアパートの2階。 玄関でローファーを乱雑に脱ぎ、すぐに洗面所に向かった。 冷たい水で顔を洗い、白いタオルで拭く。 鏡に写った自分の顔を見た。 左頬が赤くなり、少し切れているだけで他は普通だった。 それを見て、芹岡の汚さに苛立ちが込み上げた。 見えない所ばかりやっているから。 つまり、首から下はボロボロだ。 しばらく見ていると、鏡に写る暗い廊下から、不気味な顔が見えた。 心臓が飛び跳ねた。
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