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「親父…」
驚いた。いつの間にか後ろには親父が立っていた。
「た、孝、大丈夫か? 顔が腫れてるぞ!」
目を大きく見開いた親父が、早口に言った。
「大丈夫だよ。 ただの友達同士の喧嘩。男ならよくあるでしょ? たまには男らしいこともするんだよ。 」
左頬が痛んだが、笑みを浮かべた。
「あ、ごめん、僕今日はご飯いらないから。 明日の朝ご飯に食べるよ。」
親父を避けて 足早に部屋に入った。
ドアを閉めた瞬間、何故か涙が溢れ落ちた。
ベッドに横になり、息を殺して静かに泣いた。
母さん…
会いたいよ…
机に置いてある写真を見た。
母さんと親父に大事そうに抱えられている、3歳の俺が写っていた。
母さんの優しい笑窪。白い肌。綺麗な長い髪の毛。
今はもう、触れられない。
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