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「気分悪くしちゃってごめんね。 あれが兄貴。」 歩きながら芹岡が言った。 「いいえ、全然。 あの…お兄さんと、上手くいってないんですか?」 芹岡が下を見ながら微笑んだ。 これ以上話したくないのだろう、しばらく無言が続いた。 「芹岡先輩、私で良ければ、お話聞かせて下さい。 何も出来ないかもしれないけど、芹岡先輩をもっと知りたいんです…。」 芹岡は私を見て、微笑みながらも哀しそうな顔をした。 「飲み物 買おっか。 何飲みたい?」 道の途中にあった自販機で適当に飲み物を買い、十分ほど歩いたところの広い公園へ行き着いた。 結局、兄のことは聞けなかったが、あの反応からすると上手くいっていないことは間違いないだろう。 また、最近に始まったことではなく、長年ああいう扱いを受けていたのだと感じた。 「ああ、懐かしい。 私、小さい頃たまにここに遊びに来てました。」 「そうなの? ここ広いし、休日は子供たちで溢れてたよね。」 私たちは公園の一角にある、ブランコに座った。 陽が落ちかけて来た公園内は、子供は一人もいなかった。 「小さい時さ、両親が離婚したんだ。」 芹岡が缶ジュースのプルトップを引きながら、呟いた。 やっと心を開いてくれたか。 そう思いながら横の芹岡を見つめた。 「親父は会社の社長だってのに、浮気が原因でさ。 それも、母親も父親もそれぞれ浮気してたんだって。 呆れるだろ?」 ブランコの金具が、きいきいと軋む音が響いた。 「俺と兄貴は、親父に引き取られたわけだけど、親父は兄貴が可愛いらしいね。 頭も良いし、言うことも聞くし、後継には最高だから。」 「お父さんも、あんな扱いを…?」 芹岡は唇を横に結び、頷いた。 「別にそれでもいいんだ。 仕方ないと思う。 俺が生意気だし、迷惑かけてるのも事実だしね。」 迷惑をかけてるのを知ってて、なぜ反抗するんだろう。 そう思っていると、 「でも親父や兄貴の言いなりになるのだけは、絶対に嫌なんだ。 だから、酷い扱いを受けてもどうも思わない」 と私を見て、微笑んだ。
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