589人が本棚に入れています
本棚に追加
/282ページ
"__人間は皆、何かを恨まないと生きていけない。"
朦朧としている意識の中で、ぼんやりと視界が開いた。
地面に座っている、俺の膝が見えた。
"__脅威から、逃れる為に。"
声が頭の奥で反響した。
埃っぽい空間に思わず眉をひそめながら、視線を地面に向ける。
見覚えのある靴が二足ずつ無造作に脱ぎ捨てられているのが見えた。
ひとつは俺のスニーカーだった。
休日の日しか履かない為、汚れが少ないことに改めて気づいた。
もうひとつは親父のサンダル。元はブルーだったのだろうが、履き潰されて黒に近い色になっている。
しかしなんでここにあるのか、わからなかった。
…理解できた。ここは、自宅の玄関のようだ。
徐々に視界が狭くなっていき、身体が鉛のように重く、思うように動かない。
"__本当に怖いものは、何?"
俺は何かを呟いた。
しかし何と言ったのか自分にも分からず、それを頭で考える力さえ出なかった。
残ったのは、見覚えのある声の残響だった。
最初のコメントを投稿しよう!