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「あまり時間がない。さて、まずは状況を確認しよう」
近藤は(便宜上その人とは呼びづらいので、近藤ということにしておく)私の目を見た。私はなぜこのような状況で自分自身である近藤が突然と現れたのかは理解できないが、その目の奥に近藤の明確な意思が感じ取れた。近藤は何かを為さなければならないために、時間を止めてまで私に会っているのだ。
「今オレたちが乗っているこの車はトラックと衝突しようとしている。今は時間が止まっているが、時間が動き出したら確実に即死は免れないような状況だ」
私は前を見た。確かに今動き出したら確実に、私もそうだが彼女も亡くなるだろう。
「この事故はあらかじめ決められていることだ。そしてお前が死ぬ可能性も非常に高い」
この状況からして何となく想像はつくが、改めて言われると嫌な気分になる。
「まあそんな顔をするな。その代り、彼女はこの後ハンドルを切って助かるし、相手の運転手も大きなけがもない。死ぬのはお前だけだろう」
「彼女は助かるのですね。ならよかった」
私だけが亡くなって彼女が生き延びるならよかった。せめて彼女には生きていてほしい。私は自分が死ぬことに後悔はなかった。仕事もそんなに悪くなく、彼女を含めた周囲との関係も良好で、別に今死んでも後悔するようなことはなかった。
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