36人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
俺は大学に入学してすぐ、この大学へ来たことを後悔した。
文芸はクズだ。
その殴り書きは、大学の講義室の長机にあった。性質が悪いことに、油性ペンで書かれている。 俺は十八歳だった。
一般教養で使われる講義室だ。どの学科も入れる。裏を返せば、どの学科の学生でも、この文字を書くことができ、読むことができる。
ここには、人の夢を馬鹿にする人間はいないと思っていた。ショックだった。
「座らないんですか?」
声をかけられ、びくりと震えた。
「座らないなら、座っていいですか?」
そこ、と、青年が暴言を指さす。
「ここ?」
「そう、そこ」
ちらりと油性ペンの文字を見る。青年は唇を伸ばした。
「文芸?」
「いや、音楽」
「なら、傷つく必要ないんじゃない?」
青年が黒い文字の上に鞄を置こうとする。俺はそれを押しやり、拳でその文字を消そうとした。皮膚が摩擦で痛むのに、文字が消える気配はまったくない。
一般教養を受けに、他の学生がぞろぞろと入ってくる。好奇な視線を感じる。
青年が手首を掴んできた。彼は何も言わずに、文字の上に鞄を置き、淡々と聴講の準備をしていく。俺は居たたまれなくなって、講義室を出た。
最初のコメントを投稿しよう!