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 何かがズレている。何かがおかしい。はっきりとは言えないが。  抱いてしまった疑問で頭を使っていると、店主が皿一杯に詰められた寿司を運んできた。学生達が急いで俺の前に場所を作り、店主がそこに寿司を置く。 「ありがとうございます……」 「おう……」  店主は口を歪めたり、頬を吊り上げたり、顎を引いたりして、一人で顔芸をしていたが、最後には深い溜息をつき、鉢巻をとった。 「俺、やっぱ、こういうの、駄目だわ。悪い」 「え?」  そう声をあげたのは、一人じゃなかった。 「兄ちゃん、いいもんもってるよ。これは本当に俺からの奢りだ」  反射的に佐伯を見た。  相手はこちらの視線に気づき、口を引き締めた。 「予想以上に兄ちゃんが上手いもんだから、ここにいる連中、みんな、自分のしなきゃなんねえことを忘れちまったんだ」 「店主、なに言ってくれちゃってるんすか? ちょっと、夜風にでもあたりに行きましょう」  遠野が店主の肩に腕を回す。  ここにいる全員が仕掛け人ってことか。  持ち上げられて落とされたのに、怖いくらいに冷静だった。 「大丈夫ですよ。はじめからわかっていましたから。学生も、卒業生も、みんな、演技がボロボロだ。変なことに巻き込んでしまい、すみません。元凶の男に金、ちゃんと貰ってくださいね」  佐伯、と恋人を笑顔で振り返る。 「払っとけよ、責任もって」 「わかってる」  ギターを軽音の青年に返し、コートに腕を通して、腑に落ちない顔を向けてくる恋人を、もう一度、見る。 「佐伯、俺の分、立て替えておいてくれ。あと」  半眼で相手を見つめる。 「今日は帰ってくんな」
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