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佐伯以外に向けて頭を下げる。
「俺はこれで失礼します」
無言で見送られ、一人になると、拳を握りしめた。
馬鹿正直に歌うんじゃなかった。
速足で路地を歩いて行く。後ろから手首を掴まれた。
「待てよ」
帰り支度をしてきたらしい佐伯の手を払う。
「俺も帰る」
「帰ってくるなって言った」
「お前のところ以外には帰れない」
路地を行く人々がじろじろと俺達を見てくる。
「とにかく、手を放せ」
「お前が好きなんだ。放すわけがないだろ」
「なに言ってんだ。酔ってんのか?」
「ああ。酔ってる。遠野達にお前の実力を知らしめることができて、俺は満足だ。酒で酔うよりいい気分だね。加藤にもそうなって欲しかった。俺はやれるんだと、もう一度、夢を描いて欲しかった」
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