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立ちあがる。ピエロのところへ行き、唇を伸ばす。
「俺にも、作ってくれませんか?」
ピエロは拳で胸を叩き、一人で咽る演技をし、俺は指の関節を唇につけて笑いを押さえた。ピエロは黒色の風船で銃を作った。魔法みたいだ。彼は上へ銃を投げ、それがゆっくりと俺の手に納まるのを見て大きく頷いた。
「ありがとうございます」
ピエロは首をぶんぶんと横に振ると、さっきとは違う女の子に呼ばれ、ぴょんぴょんと跳ねながら行ってしまった。
俺は銃を握りしめ、食堂を出た。着物の姿の女性から芸術祭の冊子を貰い、ズッキーニの名前を探す。手作りの冊子に目が緩んだ。
映画棟にある目的地に着くと、部屋の前に受付の男女がいた。男の方は、昨日、居酒屋で隣に座った金髪の学生だ。
「先輩、来てくれたんすね! 嬉しいっす!」
「ああ」
「ちょうど、今から上映なんで。ここに名前、書いてもらって、これ、パンフです」
ボールペンでノートに名前を記入し、薄い冊子を受け取る。
「ありがとう」
「俺こそ、来ていただき、ありがとうございます」
にっこりと笑んだ青年に微笑みを返し、薄暗がりの部屋にある椅子に座った。観客は少ない。まもなく上映されるとのアナウンスが入り、ビーと音がして映写機が回り始めた。
周囲に馴染めない女と、そんな彼女が気になる男の恋愛映画。関係性を、お友達にまで進めたところで、映画は終わった。拍手が起こり、電気がつけられる。
感謝のアナウンスを聞きながら腰を上げると、出入口に立っていた男に手を振られた。
遠野だった。どこかで茶でもしよう、と言われ、珈琲研究会が開いているカフェで、ブレンドを頼んだ。
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