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「できるよ。大丈夫」
歌ってごらん、とメロディーを弾いてみる。男の子が歌い出す。
「うん。上手」
伴奏をつけると、男の子が見上げてきた。
一曲、終わってから、サビの部分だけを、ふたりで辿る。その子は、たどたどしいが、そこだけは一人で弾けるようになった。
「ありがとう、おにいちゃん」
男の子の頭を撫でる。母親に深々と頭を下げられ、俺も同じように頭を下げた。楽譜を女学生に戻し、荷物置き場から銃をとる。
「演奏、素敵でした」
女学生に微笑まれ、「ありがとう」と笑顔を返し、古巣をあとにした。
一般教養で使われる、その講義室には誰もいなかった。
あの落書きは、今もそこにあった。暴言に銃を向ける。
「バン。……バン、バン、バン。ビビビビビー」
弾丸も、レーザー光線も出るはずもないし、落書きが消えるわけでもない。銃を机に置き、椅子に座ると、落書きの上に突っ伏した。
誰かが入ってきて、俺のところで止まった。
「加藤……」
佐伯の声だ。返事をしないと、相手は隣に座った。
「探した。携帯に何度も電話したんだぞ」
「……ごめん。携帯、忘れた」
佐伯が大きく息を吐く。
「彼女とはなんともないからな」
「佐伯……」
上半身を起こす。
「キスして」
佐伯の手が頬に当てられる。瞼を下げ、キスを受け止めた。ちゅっと唇が離れ、また重なる。
「ん……。は……。はあ……。ん。ふっ。ん……。んん!」
激しくなっていくキスを、佐伯自身が俺を抱擁することで中断した。
「悪い。少しこのままで」
佐伯の下半身に硬く立ち上がるものがあり、そっと触れてみる。
「する?」
相手は生唾を飲み込んだ。
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