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「……し……たいけど、しない」
佐伯の心臓の音が速い。
「まじめだな。誰も来ないと思うけど」
「そうじゃなくて……。学生のときは芸術祭をふたりで回ったことなんて、一度もなかったから」
「うん」
佐伯の背中を抱きしめる。
「ふたりで回りたい」
「え?」
驚いて、体を離した。
「なんだよ、その顔。俺じゃあ不満か?」
「ちが! 違う。嬉しい。すごく」
佐伯が歯を見せて笑む。
「俺も落ち着いたし、行こっか?」
その前に、と佐伯が銃を掴み、暴言に銃口を突き付けた。
「バン、バン、バン」
俺は額を手で支えた。
「見てたのかよ」
「加藤の知らない側面を見れて、胸キュンだった」
「気持ち悪い言い方するな。何歳だと思ってんだ」
佐伯は笑い、手を差し出してきた。
「行こう」
手を重ねると、ぎゅっと握りしめられる。
文化祭の冊子を開き、時間が指定されている出し物に足を運び、屋台で食べ物を買って、展示もすべて回った。
夕暮れになり、他の客に交じって公道へと流れ、大学を振り返った。佐伯が立ち止まってくれる。
「どうした?」
「……今日、バーへ行ってもいい?」
「いいよ」
「ありがとう。部屋に帰って、ギターを持ってくる。すぐ戻ってくるから、待っていてくれないか?」
佐伯の目が湿り目を帯びる。
「もちろん」
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