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「蔑まれると思ったんだ」
佐伯は息を吐き、上を向いて目を閉じ、ゆっくり開けた。
「何年も経ってしまったけど」
佐伯に見つめられる。
「あのときはありがとう。あのときだけじゃない。ずっと、俺を諦めないでいてくれて、ありがとう」
笑いたいのに、嗚咽が出そうで唇を噛んだ。
自信を持ちたい。自分が自分でいられるように、社会で渡り合えるように、佐伯が笑えるように。
バーへ着き、年配のバーテンダーに弾き語りをしてもいいか、頭を下げた。男は快く了承してくれ、グランドピアノにライトを当てた。
「なにか、俺にできることはあるか?」
「あるよ」
マイクをセットしていた手を止め、佐伯に微笑む。
「俺の歌を一番近くで聴いていてくれ」
完
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