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ルナはグレイの胸に抱かれたまま、小さな涙の雫を目尻に滲ませていた。
「ルナ…戻ってこい…」
深い眠りの底にいたルナはグレイの囁きに呼び戻される。
ルナはゆっくりと目を醒ました──
「あ…」
たった今まで見ていた夢と現実が交差する。
この邸で起きたモーリスの悲しい過去。そして主従の契約を結んだ理由──
魔物よりも恐ろしく醜い心を持つ人間のもたらした災い──
“人間は低俗で愚かだ──”
よく口にするこの人の言葉──
それは確かなのかもしれない…
「魔物が怖いか?──」
「──……」
グレイは抱き締めていたルナを覗き込んだ。
今となっては怖いなんて思うこともない……
あんな過去を見せられたらなおのこと、何よりもこの世で恐ろしいのは欲に囚われた人間自身なんだとよくわかる……。
ルナは少し複雑な表情を浮かべていた。
「どうやら気分が優れないようだな」
「そんなことはっ…」
窺うように顔を覗き込んだグレイにルナは戸惑いながら返した。
「なら纏った衣装の感想を聞かせてもらおうか──」
「え?」
ルナは言われてハッと自分が身に纏っていたドレスに目を向けていた──
赤と白の二枚のドレス。重ね着していた筈のそれは一枚のドレスとなって淡いピンク色に変わっている。
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