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デジャヴ。
それは良くあることだった。
類似感覚と共に己を侵食し始めるのは甘やかで心浮つく楽観であり、時に胸を抉られるような悲壮であったり、全身が強張る恐怖だったりした。
目を覚ますと先ず緑が飛び込む。
次に青々とした新緑の隙間から瞬く日射しは目に凶器として刺さる。
う。いたた…。
身体は苦痛を訴えた。特に背部を強打したようだった。
何故痛いのか考えた。何故だろう。木から落ちたかな。
手はしっかり握りしめている感覚に、今日もこれを見れることに何故だか安堵する。
転がったままその紙を日差しに透かして仰ぎ見る。
『ごめんなさい』
ただ一言、謝罪のことば。
上から目線の独特な言葉。もしくは親しい間柄か、くだけた言葉使いが通用する相手に対する謝罪。
これが不定期に、何処からかヒラヒラと舞い自分の近くに落ちて来るのだ。
暫く経つと青白く煌めく粒子となって消えて行く不思議な紙を、呆然と見つめるのも日課だった。
ここはどことも知れぬ森の中だとは理解できる。直ぐ側には威圧するような岩肌の崖もある。
薄汚れた肌障りのよい服を纏い、怪我をしたのか所々に血の跡もあったが痛みはない。目が覚めればここにいるが、何故ここにいるのかも自分は何者かも解らないのだ。
ただ、木々の隙間から見える空を見上げると落ち着き、そして次は苛立や焦燥感、郷愁を感じる。
それは日によって多様に異なったが具体的でない感情に陥るのだ。
何日か繰り返し、木々は高さを増し草木は繁茂したように思う。
呆然と仰ぐが、生い茂る枝葉に阻まれて大好きな淡青色の空が見えなくなって来た。次第にあの不思議な手紙も木にひかかるだろうと思っていたが、やはり手元に届くのだ。
延々と同じ事を繰り返し、何も変化のない己に対し流石に危機感を覚え始めた。
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