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今夜はいつもと様子が違う。
黒いスーツの男は、ソファーに深く腰掛け、素っ裸でベッドに座る私をただ、見ているだけ。
服を脱ぐ素振りも、自らの股間に手を伸ばしもしない。
動作といえば思い出したように煙草を吸う程度。
会話もない。
それがもう三十分以上続いている。
私は訊かずにいられない。
「どうして見てるだけなの?」
男は笑った。
「最初からその約束だろ」
「触りたいと思わないの?」
「君は触られたいの?」
聞き返されて言葉に詰まる。
こんな客、初めて。
私が黙ると、男も無言に戻った。
そして裸の私を見続ける。
その瞳に性的な欲望は全く感じられず、だから余計に居心地が悪い。
男に裸を見られて恥ずかしいと思ったのは、これで二度目だ。
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