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 留年した挙句、彼女と別れて、夜勤で体壊して……あのころの友達はみんな卒業してしまった。一人ぼっちで学食を食べ、一人ぼっちで電車に乗って、あの輝かしい日々はもう、遠く昔のことみたいにカバンの奥で醜悪なシミになっている。  この時間のホーム、こんなに人が多いとは……すみません。今から嫌なモン見せつけますけど、許してください。  死んで、詫びますんで。  ******  飛び込んだのは、幼稚園児だったという。  異様な事件に、当初は母親が突き飛ばしたのではとネットで騒がれていたが、どうやらそうではないらしく。  また、五歳児が遺書など書けるはずもないのでそのまま事件は迷宮入りしてしまった……と。  悲しむべきことなのかもしれない。否、人は皆、悲しまなければならない。だというのにそれは怒りや苛立ちに変容し、母親への誹謗中傷となって、打ち据えられる。  だが彼女は来る日も来る日も祈り続けた。憎んでやまなかった和也が目の前で飛び込んだ事実に向き合い続けた。  五歳という若さでこの世を去った彼の命をその身に宿したかの如く、生き証人となるべく、どんな誹謗中傷の類も受け止め続けた。  真っ当な一般企業に就職したはずだった巽刑事が話すには。  十五年前、当時の目撃者の供述、俺を含めた男二人、件(くだん)の母親は皆一様に口走っていたらしい。凄惨な事件を、幼児を悼むべきところだというのに。 「生きなきゃ」  お代を払ってくれた巽刑事に礼を言った。     
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