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秋
ああいう人にはなりたくないな。夜勤帰りに公園のベンチに寝そべる若い男を見て思った。きっと酔っ払いや、酔っ払いの類だろうと決めつけて。
あの頃、思い描いていた人物像とは違うかもしれない。毎日を必死に生きる僕の枕元にまた、朝日が寄り添うのを見て夜勤明けの身体に鞭を打ち、チャリチャリ音の鳴るスカスカの財布をトートバッグに入れて――それだけを手に立ち向かう。
金木犀のあまったりい匂いが。ちょうど聴いていたジョン・メイヤーのネオンと相まって虚しさを醸し出す。
「おはよう」
「……なあ、お前さ。そろそろ夜勤辞めたら?」
一時間。通学時間、である。僕はどこかの陰鬱な小説みたいに耳に栓をして電車に乗っていると、不意に肩を叩かれたので顔を上げてみれば同期の巽(たつみ)がいた。
「顔真っ青やで」
「うっさいなあ、そうやすやすと辞めれるわけちゃうんやぞ。彼女とセックスするにも金はいるんや。童貞のお前と一緒にすんなや」
「童貞関係ないやろが。そうや、老立(おいたち)。お前何限までなん?」
「三限までやな」
「じゃあ、そのあと飲みに行こうや。そんで、銭湯行って河野(かわの)の家泊まるやろ?」
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