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ゴウンゴウンとポンプ音を響かせてはるか頭上の歯車が回る。その動力がどこをどう経由するのか俺の腕間接に油を差し、メンテナンス技師が腕をくるくると回す。マッサージ、と仲間内で呼ばれている四肢可動域メンテナンスだ。
「世界ってひとつだと思うか?」
「なんだ、隣だったのか」
ヨゼフは足をぐりんぐりん回されながら続ける。
「世界とは、この宇宙の他にもあるのではないだろうか」
「どうした藪から棒に……。珍しく夢あふれる話だな」
「その世界は、もしかしたら魔法技術として発展しているかもしれない。ある世界には僕らのようなアンドロイドはいないかもしれない。ある世界は、もはや物理法則すら違うかもしれない」
はい、うつ伏せになってと言われ向きを変える。
「……その世界にはエールビールはあるのか」
「あるかもしれないし、ないかもしれない」
ヨゼフも技師にひっくり返される。
「別の世界があったとして、我々が覗くことができるとは限らないが」
「……俺は、別の世界があったとして、エールビールの飲めるこの世界を離れるつもりはねえよ」
「エールビールの海がある世界もあるかもしれない」
「ビールの海……ひかれないな」
「何故」
「お前だって、朝っぱらから深夜まで聖歌聞きっぱなしなんてやってられないだろ。平気になった頃にはそれはもうありがたみの欠片もないサントラだ」
うん、そうか……。ヨゼフは考え込むようにあごをさすった。俺は技師の指示でヨゼフに背を向けたから、ヨゼフが世界をどう考えてるかを知ることは出来なかった。
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