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ウォッチが愛おしそうに手首をさするのを見かけたので、近づいてみるとそこには新しい文字盤ができていた。
「新しくしたのか、それ」
「うん。あのねえ、今回のはねえ、ここ押すと光るんだよぉ」
文字盤の脇のボタンを押すと数字がチカチカと瞬く。よく見ると数字の周りにかなり小さなライトがたくさんついている。器用なもんだ、こんな細かいもの作るなんて。
ウォッチはメンテナンス技士のうちの一体で、力は無いが細かい作業が得意だ。俺たちの体の配線不具合とか、断線修理なんかを担当する。
「それ、自分でやるのか?」
「違うよう、ぼくにはできない。ヨージだよ。ヨージはこういう歯車使ったものが大好きなんだって。だからね、ここ壊れてるの見て直してくれたんだあ」
ヨージもメンテナンス技士だ。片手先が爪楊枝みたいになっていて、充電時、コンセントにプラグを手でさせないので足を目一杯あげて器用に差しているのを見たことがある。
すげえな、と感嘆しつつ無駄な機能だなと思う。休憩時間やメンテナンス時間、充電時間は工場内放送で連絡があるし、いちいち時間を確認する理由が無いのだが。
「ぼくはねえ、この小さな針がコチコチいうのが好きなんだあ」
試しに耳を近づけると確かにかすかな固い音がする。規則的に続く音。
「人間ってね、このくらいの早さで心臓っていう、ぼくらでいうメインバッテリーみたいなものが脈うってて、それが動いてるから生きられるんだって。だからこの音は、いのちのはやさなんだよお」
コチ、コチ。コチ、コチ。
二人で時計に耳をすませた。
いい音だな。
呟くと、ウォッチは手首を頭につけたまま、こっくりうなずいた。
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