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「あれ、それどうしたんだ」
検品担当のハチの肩に、花が咲いていた。濃いピンク色の、丸みを帯びた五角花。
「今朝。咲きました」
「また土入れてんのか。仕事の時は置いてこいっていつも言われてんだろ……怒られるぞ」
「大丈夫です。今回のは、蔓じゃない」
「そういう問題じゃねーよ……」
ハチは植物が好きだ。背中の、首後ろにある窪みに土を入れていて、時々そこから何か生えている。しかし道端で見かけて気に入ったものを適当に植えるものだからしばしばトラブルにもなっている。たった今話題に出たのは蔦のことで、席に座って検品している間に蔓が伸びて絡まり立ち上がれなくなったのだ。そもそも製品異物になりかねない土を工場内に持ち込む時点で問題であり、上司からしばしば注意されているらしいが一向にやめる気配はない。
「その花、前にも何度か生やしてたろ。飽きねえの」
ハチはふっ、と子供を見るように笑った。いやアンドロイドに子供型は無いのだがなんかそんな感じの、相手を未熟と見るような。
「なんだよ」
「咲く花、全部違います。種類は同じでも、花弁の向き、茎の長さ、葉の数。一つ一つ、個性的」
色や香りもきっと違うんでしょうねえ。製品表面のキズ検出に特化したアンドロイドはそんなことを言って、ノンベーさんにとってもエールビールは一杯ずつ別物なのでしょうと俺の反論を封じた。
「……ああ、エールは旨いぞ。お前も呑めたらよかったのにな」
始業の鐘が鳴る。俺らは軽く手を振って持ち場に戻った。
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