4:以心伝心

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今日の出荷分の段ボールをコンテナに詰め終わった後、290325Q号が積んだ段ボールの天面にラベルを貼っているのを見かけた。 「あれ、そんな指示でてたっけ」 音声データを検索したが記録にない。 「指示は出てないですけど……。サンさん、いちいち段ボールの中身確認するの面倒くさがると思って」 「気遣いか? できた後輩だな」 そういいながら俺も指示書の品名の照合を手伝う。荷受けがサンなら特に礼は言わずとも「気が利くな」くらいつぶやいてくれるだろう。 半分以上にラベルを貼り終わった頃にバタバタとせっかちな足音が聞こえてコンテナから顔を出した。げ。フォックスだ。こいつは何かとアンドロイド間で問題を起こしている嫌われ者だ。他人の話は聞かず自分の話ばかりするのはよく居るパターンだが、立場を考えない行動も多い。仕事の邪魔になる頻度で部下を会議(というよりフォックスの持論講義)に呼びつけるし、部下の努力の結晶を涼しい顔で全て自分の成果ということにして上に報告してたりするし。 「……なんすか」 残念なことに俺らの上司なわけだが。 「わしがさっき考えたんだが、段ボールにラベルを貼っておけ! 荷物の区別がつきやすくなるからな!」 「……」 「向こうには今後そうすると連絡しておいたからよろしく頼んだぞ!」 「……。はい」 もう貼ってるんですけど。指示なくとも。 言う隙もなくフォックスは「ヨゼフは居るかー!」と大声を出して既に背を向けている。あー、また会議か。巻き込まれるわけにはいかないのでそっとコンテナの扉をしめた。 「……なんか一気にやる気なくなりましたね」 つけたライトに後輩が投げ捨てたラベルが映った。それを拾い上げ、俺はラベル張りを再開する。後輩も再開したが、終わるまで一切会話はなかった。
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