【ゴースト・オブ・ザ・謝罪】

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{2} さて。 改めて、自己紹介させて頂くと…私の名前は、松本明夫。 職業は、小説家だ。 今から一ヶ月前の事…。 私は、どこか郊外の静かな環境で新作小説の執筆に集中したいと考え、その条件に見合う新居を探していた。 「先生!それなら良い物件が有りますよ!」 相談に行った不動産屋の担当者、鈴木君は目を輝かせながら私に『ある物件』をすすめて来た。 それは、都心部からバスで30分ほど行った所に有る、とあるベッドタウン。 「街中からそれほど離れた場所ではないのですが、自然に囲まれた本当に静かな場所ですよ」 鈴木君は説明を続けた。 「ほぉ。それは良いな。 たまに街中の雑誌社に行く事が有るから、いくら静かな環境と言っても、あんまり街から遠く離れたイナカでも困るなぁと思ってたんだよ」 私は、うなずいた。 鈴木君の話によると… そのベッドタウンは、今から一年ほど前に出来たばかりなのだそうだ。 近隣にはコンビニが二軒有るし、小さいがスーパーも有る。 都心部への直通バスも二路線走っており、自然に囲まれた環境でありながら人が住む便利さをも兼ね備えた、まさに理想のベッドタウンという訳だ。 そこには、鉄筋二階建ての建て売り住宅が十棟、並んで建っていて、既にそのうち八棟には入居者がおり、その中には定住せずに別荘代わりに使用している人もいるらしい。 (家を買い取って住む事もできるし、管理会社に家賃を払いながら住む事も可能との事) 「なるほど…。 じゃあ、今のところ空いている物件は、二棟のみという訳だな」 私は、腕組みしながら口を開いた。 「はい! 私としましては、断然、A棟がオススメです!」 と、鈴木君が目の前で広げてくれた現地の区画図を見てみると… 小さな四角いマークがあちらこちらに点在しており、(そのそれぞれにA、Bといった具合にアルファベットの大文字が記載されていた)そのうちの八つには黄緑のマーカーでチェックが入れてあった。 恐らく、それらが『入居済み物件』という事なのだろう。 鈴木君がオススメした『空き物件』のA棟は… 周りをぐるっと他の家々に囲まれていた。 私が、更によくその区画図を見てみると… 住宅街から少し離れた場所に『ぽつん』と、もう一軒『空き物件』が目に止まった。 そこは、D棟と記載されていた。
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