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「おい、鈴木君。
このD棟というのは、どうなんだい?こっちの棟の方が他の家から離れていて静かそうだから小説の執筆には、もってこいの物件だと思うのだが」
と、私は素朴な疑問を口にしてみた。
と…
「あ、D棟…ですか…」
途端に、鈴木君の表情が曇った。
そして、
「あの棟は近々、取り壊す予定でして…」
と、何とも歯切れの悪い返答を返して来た。
「え?そりゃまたどうして?まだ、たった築一年足らずの家なんだろ?まさか、D棟だけがもう老朽化したとでも言うのかね?」
「い、いえ…。そういう訳ではないのですが…」
鈴木君の返答は、さっきからどうも歯切れが悪い。
ははーん…。
と、その時、
私の作家としての(?)妙な『カン』が、はたらいた。
「もしかして…鈴木君。
このD棟って『出る物件』なんじゃないのかい?」
「…えっ?」
その時、鈴木君の表情が明らかに動揺した。
「やっぱり…そうなんだな」
ご推察の通り、ここで私が言った『出る』と言うのは…勿論 、『アノ世の者たちが出る』と言う意味である 。
「…分かりました…。白状します」
鈴木君の説明によると…
今から一年前、
このベッドタウンがオープンすると同時に、D棟にはすぐに買い手がついた。
それは、歳を召した老夫婦だったのだが、
入居して何と!一ヶ月足らずで突然、D棟の入居契約を解除して別の土地へ引っ越すと言い出したのである。
担当した鈴木君が、いくら引っ越しの理由を聞いても、ちゃんと説明をしてくれない。
D棟から出て行く時…
その老夫婦は、何となくゲッソリとやつれた様な印象だったと言う。
さて。
それから数ヶ月後、次の契約者がD棟に入居した。
入居者は、一人の中年女性だったが…
入居した三日後に突然!
鈴木君がいる不動産に怒鳴り込んで来た!
「ねえ!!ひどいじゃないのっ!あの家、幽霊が出るわよっ!そういう事は、契約の時に前もって教えてくれなきゃいけないんじゃないの?!」
「えっ?!」
鈴木君は、面食らった!
その女性に詳しい話を聞こうとしたのだが、彼女はプリプリと怒ってろくな説明もせずに一方的に契約を解除してD棟から引っ越して行ってしまった。
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