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「うーむ。なるほどねぇ…」
鈴木君の説明を聞き終えた私、松本明夫は声を漏らした。
「しかし…
そのD棟、取り壊してしまうとは、何とももったいない話だなぁ…」
「まあ…使用がないですよ」
と、私の言葉に鈴木君は、静かに応える。
と…
その時、
私の中に突然『ある思い付き』が生まれた。
「なあ、鈴木君。
どうだろうか。私が、そのD棟に住んでみるというのは」
「…へ?」
彼が、すっとんきょうな声をあげた。
私は、言葉を続ける。
「だって、そのD棟に現れる霊たちっていうのは、
『ただ、そこを通っているだけ』なんだろ?
それって、言い方を変えると、霊感が無い人間にとっては全く『無害』って事になるんじゃないか?
実は、こう言っちゃ何だが…私は、全く霊感が無い。これまでの人生、心霊体験をした事なんぞ一切、無いんだよ」
「いや、でも…」
鈴木君は、言葉を濁す。
「なら、どうだろう。
まずは、一ヶ月間、私がそのD棟で生活する。それで何も無ければ、私は正式にD棟の入居契約をして建物の取り壊しも中止すると言うのは。
その代わりだな…。その時の契約料は他の棟の半額にしてくれ。どうだい?どうせ取り壊し予定の物件な訳だし。な、良いだろ?」
実は…
私のこの提案の『真の目的』は、
『契約料を半額にする事』に有ったのだ。
それに…
本当に私は、霊感と呼べるモノが全く無いのである。
そんな訳で…
私は、強引に押し切る形で(鈴木君も会社に了解を取り付けてくれて)そのD棟にまずは、一ヶ月の間、住んでみる事となったのだった。
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