scene1:ER

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 意識が浮上したとき――浮上したとするのはじつは語弊があって、俺はすでに死んでいるか、もしくは死に往く道程をひた歩んでいるかどちらかで、肉体という物理的拘束から解き放たれた想念が、あたかも意識が浮揚したように感じられる(・・・・・)だけなのかもしれない。  その状態で、一等最初に思い浮かんだことがこれだ。  外傷性胸腔内臓器損傷という重篤な状態でERに担ぎ込まれ、処置開始まもなく心肺停止。  直接心臓マッサージを施すため、急きょ呼び出された心臓外科医が開胸するも、あるべき場所に心臓がなく、まるで型取りでもしたかのようにすっぽりと抜けたその箇所を見て、全員が自失茫然するはずが…… 『てへ、忘れてた』『先生ったら忙し過ぎるから~』『あっはは、本当にねー』などというやり取りがなされて。  命がつながるかどうか、ボーダーラインギリギリの立ち位置で、なんつーブラックな笑いを誘う夢を見てんだ俺は――  チリン。  まったく、笑えるったらありゃしない。ギャグとホラーは紙一重とはよく言ったものだ。
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