scene1:ER

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 飛ぶ鳥を落す勢いで成功を手中にした俺は、本を出せばまたたく間にベストセラー、マスコミからは絶えず引っ張りだこ、出版当時、まったく話題にもならなかった過去作のドラマ化から、新たな書き下ろし脚本による、オリジナル劇場映画の制作、TVアニメ化および劇場版アニメの制作と、企画が目白押しだった。  好きでなった作家という職業で、身に余るほどの成功を手にした俺は、その後、さらなる幸運を得ることになる。  アイディアが次から次へと奔流のように湧いてきて、自分でも困惑するくらい創作意欲は衰え知らずだった。  だが、売れっ子作家の常で、書くこと以外の雑事に忙殺されてしまい、執筆が思うように進まない日々が続いた。ストレスは限界ギリギリまでたまっていた。  俺は雲隠れすることに決めた。面倒な交渉ごとはすべて、マネージメントオフィスに一任した。  タクシーを呼び、携帯電話のバッテリーを外して、小ぶりのボストンバッグの一番下に投げ入れ、その上に二日分の下着や靴下を詰めた。タオルを2枚敷いて、バッグ用インナーケースに収納したノーパソを置き、その上に、Tシャツ2枚と綿シャツとプルオーバーを詰めた。
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