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濃いグリーンレンズのサングラスに、スウェット素材のワーク帽を目深にかぶり、読みかけの幻想小説アンソロジーを引っ掴むと、上着を片手に玄関ロビーへ降りた。コンシュルジュに挨拶し、執筆に専念するため、しばらく留守にする旨を伝える。コンシュルジュは淀みない口調で留守中の対応について述べ、最後に、「ほかにご要望がございましたら、いつでもお伺いしますのでおっしゃってください。いってらっしゃいませ、風凪先生」と、完璧な笑みとともに送り出してくれた。
タクシーが到着し、エントランスの内側の自動扉が開きかけたところで、ふりかえりざま、俺は言った。
「あそこにいるパパラッチ、殺っといてくれ」
「かしこまりました」
なぜ、芸能人でもない俺の周りを、パパラッチがうろついているのか。
実際のところ、売れてからの俺は、まるで芸能人のようにあつかわれることもしばしばだった。
アイドル歌手の横でコメントを求められたりするのだから、それもいたしかたないのかもしれない。
マスコミからすれば、社会的にある程度の地位にいる人間はみな、にぎやかしとして必要不可欠な存在だ。ただ、最近とみに集ってくるようになったパパラッチ共には、それとは別の理由があった。
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