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◆12年後◇
東京郊外のとあるマンションの居間。
3人の家族がアルバムをペラペラとめくっていく。
妻と夫は12年前の出来事を思い返していた。
「え、それがパパとママが付き合うきっかけになった話し?」
えーと、嫌そうな顔で子供は両親に訊ねる。
「ふふ、そうなのよ。もらした私を苗場さん……パパが一生懸命介抱してくれてね。前から気になってたのもあって、そこからトントン拍子に結婚しちゃったの」
雛子はニッコリと娘に話す。
「キャー、恥ずかしい」娘のほっぺが赤くなる。
「伊織ちゃん!あのね、ママの方がすっごく恥ずかしいんだからね」
「会社でおねしょしたー」
「こっ、こら!」
「いやー、あの時はほんとうにギリギリだったんだよ。雛子さん……ママはドンマイだったけど。あの戦いに勝ったのは僕だけだったんだ。まあ、パパは昔からついてるから仕方ないけど」
苗場は照れながら言った。
夫の言葉に、イラついた雛子は12年前のある事を思い出した。
「……そうね。確かについてたわね、パパ。そうだ、辞めなかった会社の人達には感謝しておいた方がいいわよ。本当に優しくていい人達だわ」
「どうしたんだよ。いきなり」
「あら、もしかして気づいてなかったの?私は優しく介抱されたのが嬉しくて黙ってたけど」
「ん?だから、雛子さんは何が言いたいの?」
「だから、ついてたのよ。パパは」
「はっ?僕がラッキーだったって事がかい?」
雛子は娘の伊織をギュッと抱きしめた。
「確かにラッキーね、私達がこうして出会えたんだから。でも、違うのよ……実は12年前のあの時のあなた、ギリギリ負けてたの。ついてたわよ、スーツのパンツにほどよくね」
「え?」苗場は考えた。
ついていた?
ラッキーが何か関係しているのか?
ラッキーというと、運がいいと言い換えができる。運がいいって他に言い方があったような……
運……運がつく。カラスの糞。
12年前の事……スーツのパンツにほどよくついてた。
え、まさか……ズボンに俺のう……
「あー!!」苗場はすっとんきょうな声を上げた。
この勝負に勝者はいなかった。
(了)
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