この勝負に勝者はいない。

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この勝負に勝者はいない。

◆雛子の場合◆ もう、ギリギリよ! 東京都新宿区にある高層ビル。ビルには、いくつものIT関係の企業がテナントに入っていた。 そのうちの11階にある、とある会社の女子トイレ。 入り口から手前にある薄いピンクの扉に、社員の雛子(ひなこ)は何度も激しくドンドンというかノックした。 「すいません、開けてください!!もう、限界なの!」 1番奥と真ん中の扉には、故障中の張り紙。手前のトイレの扉は鍵がかかっていた。 雛子は脂汗を流す。 どうして!今日に限って、3つある内の2つが壊れてんのよ! 別な階に向かえば……ううん、もう限界に近い。 階段を降りる前に、下腹部の内容物も全て放出してしまうだろう。 会社の人間にバレるのは羞恥の極みだ。 しかし、それ以上に片思い相手の同僚苗場が知ったとなったら……ビルから飛び降りてしまう。きっと。確実に。 彼女は必死で懇願する。 「お願い!もう、別な階まで我慢できないの。早く出てちょうだい!」 雛子の必死の嘆願も空しく、目の前の扉は開かない。 ギリギリと彼女は歯ぎしりした。 そして、怒りのあまり扉にキックした。 周囲にビリビリと衝撃が広がる。 そこからもそもそと物音が聞こえ……ドアのロックが外れる。 やった!神様ありがとう! ドアから出て来たのは……。
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