第5章 江戸の盗っ人二人の侍

1/15

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/243ページ

第5章 江戸の盗っ人二人の侍

【斬ってしまえば跡形もなし】 すっかり夜になり、昼間の賑やかさが嘘だったかのように静まり返る江戸の町。 「随分と暗くなったなぁ、なにか出るかもしれねぇぞ。ダッハッハ」 笑いながら冗談を言う佐之助。 「やめるでやんす!ただでさえ物騒なのに危機感のない男でやんす!それより本当に吉原に行くでやんすかぁ~?あそこはいい噂を聞かないでやんす。わっち怖いでやんすよ~。」 物騒な夜道も相まって吉原に行くのをおそれる小町。 「んあ?そりゃ大人の連中が集まる場所だからなぁ、いい噂なんざねぇだろうな。もとよりそんなもんにゃあ興味ねぇんで関係ねぇわな。」 「盗っ人に遭いに行くんじゃないでやんすか!結局女目当てでやんすか!」 暗闇の中二人の言い合いが響く。 「おめぇんなこといったってなぁ」 佐之助の口が止まる。急に話を止めた佐之助を不思議そうに見る小町 「どうしたんでやんすか?急に話を」 小町の唇に指を置き黙らせる佐之助。唇に指を置いたまま周囲を見渡している。 「どうしたんでやんすか!」 小町がか細い声で尋ねる。 「何かの気配を感じんだ。それも相当な手練れのな。だから言葉を止めたんだがなぁいやだなぁ~。うまいように去ってくれたりはしねぇもんかね。」 と情けない事を言う佐之助に対し小町は 「立ち向かうでやんす!なんで逃げ腰でやんすか!それでも侍でやんすか!」 「んな事言われてもよぉ、相手が誰かもわかんねぇし、暗闇で姿が見えねぇしでやりようがねぇだろ~。まぁあってもしねぇけどな。ダッハッハッハ!」 そんなちゃらんぽらんな言動をしている佐之助の横をなにかが通り過ぎる。佐之助は一瞬だが自分の横に人影のような気配を感じた。暗闇に向かって問いかける。 「お前さんよ、最近多発してる盗っ人ってやつか?暗闇で人襲うもんじゃああるめぇよ。」 (ザリッ、チャリリ)草履が土を擦る音、その後になにかが地面に落ちる音が響く。音がして間も無く人影のような気配は消え去った。気配のしていた場所には足跡が残り、辺りには小銭がばら撒かれていた。佐之助は胸元に手をやった。すると、そこに入っていたはずの金がない。 「はぁ~、やっぱり盗っ人だったかぁ。えれぇ事するもんだなぁ本当によ。まぁこんな闇の中じゃあ隙だらけだわな。ダッハハハ」 尚も危機感が皆無の佐之助。
/243ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加