第5章 江戸の盗っ人二人の侍

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「お加代さん!なんでこんなところにいるでやんすか!ここは危険でやんすよ!歩いてるだけでとって食われるでやんすよ!」 慌てて忠告する小町。 「とって食われる?なぁんやそれ。ここには仕事で来てるんよ。吉原にもあたいの店のお得意さんがいはるからね。それにここに来る男どもは遊女を見に来はるから、他の女には興味もたれへんよ。」 その言葉を聞いて安堵する小町。 「ちょっと待つでやんす、ということはわっちに嘘を教えたということでやんすか!この男は本当に!」 佐之助に腹を立てる小町。 「んあ?な~に腹立ててやがんだよ、ああでも言わねぇと黙らねぇだろお前ぇさん。あれでも心配したつもりなんだぞ俺ァ」 「だとしても言い方っていうものがあるでやんす!女でやんすよ!もうちょっと優しい言葉を掛けるでやんす!」 「だぁ~からお前ぇは本当に」 グゥゥゥ~。 そう言いかけた時、佐之助の腹が大きな音を立てて鳴った。 「なぁんや?お腹減ってたんかいな。ついてきなはれ。この先にいいお店があるで」 口を抑えてクスクスと笑いながら言うお加代。佐之助と小町はお加代に身を任せ料理屋へと歩を進めた。三人は料理屋に入り、席へと着き注文を済ませた。「あんだい、飯屋までこんな人がたかってんのか。まったく吉原ってのはどこに行っても穏やかじゃねぇなぁ。」 不満気に言う佐之助。 「まぁまぁ。そう言わんと。ほんのちょいと待ちはったら、ご馳走が来はるよ。確かに人だかりはすごいけど皆目当ては同じ女どす。」 吉原の遊郭で人だかりのできる場所は主に三箇所。その三つの場所は複数の男が取り合うほど大人気の遊女がいる屋敷。一番人気の狂花、二番人気の鈴蘭、三番人気の薔薇姫。特に一番人気の狂花の人気は尋常じゃなく、一部では城主大名まで入れ込んでいると噂するものまでいるらしい。 「へぇ、城の主までホの字ってかい。一体ぇどんな女なのかねぇ、早く遭ってみてぇもんだなぁ。ダッハッハッハ」 高らかに笑う佐之助。 「まぁあたいもお得意さんの受け売りやから、どこまで本当かわからへんけどね。」 「そんな馬鹿笑いして、またお金盗られても知らないでやんす。」 「お金盗られはったん?えらい物騒やわぁ 。」 人事のように心配するお加代。そうして三人で話をしている内に飯が出来上がる。三人の前に並んだのは醤油風味の鴨南蛮。 「お、鴨南蛮かぁ、粋なもん出しやがるなぁ 。」
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