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佐之助は箸を手に取り、上機嫌で鴨南蛮を啜った。
「ふぃ~。食った、食ったぁ~。」
腹を満たし店を出る三人。
「満足する前にお加代さんにお礼を言うべきでやんす!」
「いいんよ。これくらい。あたいもお腹空いてはったし。」
お加代に鴨南蛮をご馳走になりお礼も言わず満足感を得ている図太い佐之助を叱りつける小町。それをなだめるお加代。
「感謝をしてねぇわけねぇだろぉ、ただ返せるほど持ち合わせてねぇだけだ。まぁあったらてめぇで払うけどな。ダッハッハ!あとで団子をたらふく食べていいぜ。お加代さんよ。」
「あの団子を作るのはおじいちゃんでやんす!そもそもあなたのお店じゃないでやんしょ!」
「もう、過ぎた事は忘れはって、次は何をするんやったっけ?」
「おぉ、そうだ。飯の次は女だ女。俺ァ一番人気の狂花ってのに遭いに行くからよ」
自分勝手極まりない佐之助。
「わっちは行かないでやんす!そんな派手で物騒な女、遭いたくもないでやんす!」
狂花に遭うのを強く拒絶する小町。
「じゃああたいと一緒にいよか。まだ仕事が残ってはるんよ。手伝ってくれへん?」
「んあ?こんな夜中までお加代さんに仕事させる輩がいやがんのかぁまったくよ。店主ってなぁ忙しいんだなぁ。ならここでまた落ち合うことにするか。小町、お加代さんからぁ離れんなよ」
「離れないでやんすよ!」
そう言ってお加代にしがみ付く小町。小町に背を向け去って行く佐之助。
「まったくあいつは!人をいくつだと思ってるでやんすか!わっちはあいつより年上でやんすよ!」
悔しそうにお加代に言う小町。それを笑顔で励ますお加代。お加代の顔を見つめ小町は泣きつくように抱きつく。
「これじゃあ心配しはるわな。ほな、仕事しよか。」
小町の頭を撫でながら言うお加代。
「そういえばお仕事ってなにをするでやんすか?お加代さんは酒屋でやんしょ?」
不思議そうに問いかける小町。お加代の酒屋は冠十郎の営む団子を少し歩いた先にある清水屋と言う居酒屋。酒を飲めるだけでなくお加代が自ら腕を振るった料理を頂けると江戸の男に人気の店だ。清水屋のもうひとつ大きな特徴は、人を雇わずお加代ひとりで切り盛りしている事だ。それでもお加代の穏やかな人柄と手料理、そしてうまい酒を仕入れるその店は客が絶えず、男だけでなく吉原の女中をも魅了する。
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