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「うちは人を雇わへんから、注文されたらあたいが食事を運びにいくんよ」
「なんで人を雇わないでやんすか?ひとりでお店を切り盛りするのは大変でやんしょ?」
お加代に問う小町。
「あんまり人にものを教え込むのは好きじゃないんよ。叱りつけたり、下手に褒めたり、偉そうやろ?そういうん。まぁ小町ちゃんなら雇ってもええけどなぁ。叱りつけなくてよさそうやから。」
笑顔が溢れる小町。そして嬉しそうにお加代に聞く。
「さぁさ、誰のところへ料理を運ぶでやんすか?はやく行くでやんす!」
「えらいやる気やね。うれしいわぁ。今から行くんわねぇ…。三番人気の薔薇姫はんの屋敷どす。」
顔色が変わり焦り出す小町。
一方その頃、佐之助は。
「んあぁ~?そういや、お加代さんに屋敷の場所聞かねぇできちまったなぁ。どうするかねぇこりゃあ。」
道に迷っていた。
「お?あそこ人だかりが一際すげぇな。おい、おやじ!あの人だかりはなんの集まりだ?」
佐之助は、近くにいたおやじに聞いた。
「あの屋敷の人だかりか?ありゃ一番人気の狂花だな。俺も狂花目当てで来たんだがあの人だかりじゃあ面を見るのも一苦労だな」
「はぁ~!あれが狂花の屋敷かぁ。どうりで人が多いわけだ。よし!絶対ぇ面ァ拝んでやらぁ。」
そう言って人だかりに飛び込んで行く佐之助。犇めく人だかり。
暗い夜道を大きな重箱を抱え、並んで歩いている小町とお加代。
「はぁ。まさかお加代さんのお得意様が三番人気の遊女だったなんて。結局遭うことになるでやんすなぁ。物騒な女に。」
「まぁまぁ、そう言わんと。遊女はん言うても、そない嫌なお人ばっかりやないんよ。お料理を運んで屋敷を出る、ただそれだけや。心配せんでえぇよ。さぁ、屋敷に入るで。」
お加代の言葉を信じおそるおそる屋敷に入る小町。するとそこに一人の男。
「お加代さん。いつもご苦労な事で、さぁさ薔薇姫様は奥のお部屋におられます。」
「えらいご丁寧に吾郎はん。」
男と挨拶を済ませ奥へと進むお加代。それについて行く小町。
「今のは誰でやんす?お客の人にも見えなかったでやんすが。」
「さっきの方は吾郎はんや。物騒やからねぇ。吉原の遊郭では最近お侍はんを雇ってはるんよ。他の屋敷にもいらはるんよ。」
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