第5章 江戸の盗っ人二人の侍

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「返事もなしかい。愛想がないねぇ。お前になら買われてもいいと、思ってたところなのにねぇ。」 「そんな気も持たぬのにそのような事を申すな。それに拙者は女は買わん。買うにしても其方は御免だ。」 きっぱりと断る佐吉という男。 「相も変わらず釣れないねぇ。堅物男は嫌いじゃないがねぇ。」 佐吉に向かって言う狂花。無言の佐吉。 「しっかし、男ってぇのはつくづく馬鹿な生き物だねぇ。毎夜毎夜懲りもせずに女に熱をあげるとはねぇ。愚かな奴らだよ」口から煙を吐き、外の人だかりを見ながら言う狂花。 「何百と男を見ていると皆変わり映えしないねぇ。退屈だよあたしは。何処かに面白い男はいないかねぇ。」 溜め息を漏らしながら言う狂花。すると、外の人だかりから 「お狂~!お狂~!面ァ拝ませてくれねぇかぁ~!」 騒ぎ立てるのは言わずもがなあの男。 「おめぇ!騒ぐんじゃねぇよ!」 客の男に怒鳴られる佐之助。 「んな事いわれてもよぉ~。こうでもしねぇと面ァ拝めねぇだろぉ。と、思って試してみたが無駄みてぇだな。ダッハッハ!」 頭を掻きながら笑う佐之助。 「あやつは…。昼間の。」 思い出したように呟く佐吉。 「なんだい。知り合いかい?佐吉や。」 「知り合いという程ではないが昼間団子屋で少々顔合わせをした。」 「あの出で立ち、侍かねぇ。腰に刀を差してるねぇ。どう思う?佐吉や。」 「あのような無礼者を侍とは呼ばぬ。」 「きつい物言いだねぇ。侍だって息抜きのひとつくらいするものじゃあないのかねぇ。」 二人で言葉を交わしていると、外がより一層騒がしくなっている事に気付く。 「てめぇ!いい加減にしやがれ!」 順番を守らず狂花に向かって大声を上げる佐之助に客の男が遂に怒りを露わにする。胸ぐらを掴まれる佐之助。 「あ~あ~。穏やかじゃあねぇなぁ~。しょうがねぇだろぉ。こんな数の人がいちゃあよぉ。」 反省する素振りのない佐之助に益々怒りが込み上げる男。 「てめぇ、ふざてやがんのかぁ!」 勢いよく佐之助を投げ飛ばす男。 ガシャァァン! と何かが割れる音とともに地面に放たれる佐之助。 「ひゃあ~。痛てぇ~なお前ぇ。なにしやがんだ。でもまぁ生きてるから良しとするかな。ダッハッハッハッハ!」
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