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外れた襖越しにギャッ、と声が上がった。槍で貫いた場所が血飛沫で見る見る染まっていくのが夜目にもはっきりわかる……
――仕留めたか?
左之助は抜いた槍でそのまま襖をなぎ払い、横たわる二人を確認した。全裸の男を庇うように覆い被さった襦袢姿の女はすでに絶命していた。
――しまった。よりによって女を……
貫通した槍はそのまま男の喉笛を突いたらしく、血塗れの男は息をヒューヒュー言わせて焦点の合わない目で空を睨んでいた。
「最期の最期に女に庇われるなんてなあ、どうしたよ。あんたらしくもねえ……いや、あんたらしいのかもな……芹澤さんよ」
男の目が覆面姿の左之助と合った。
「言いてえこたぁだいたいわかる」
「……」
男は死相を浮かべたままもがき、女の身体の下から僅かに這い出した。
「……まあそう遠くねえうちに俺もそっちに行かあ」
左之助は血染めの槍を脇に置き、懐刀を抜いた。
「文句や説教ならそん時にいただくぜ。
あんた、仮にも壬生浪士組筆頭局長だったお人だ。逃げる背中を突くような真似だけぁ俺もしたかねぇ、潔く観念してつかあさい……」
虫の息の芹澤に歩み寄り髻を掴み、首元に刃を突き立てる――皮膚と肉を突き通す生々しい感触が手に伝わり生温かい血飛沫が黒い覆面と着物をぱしゃぱしゃと濡らす。そのまま無言で刃を横に引き動かすと、深く吐息をついた。
――終わった。
半歩後ずさった途端、金属の棒のような物の上で滑り、不覚にもよろけた――それは主の血に濡れた軍扇だった。広げるとやたらでかく、金地に派手な字体で「尽忠報国之士芹澤鴨」と書いてある。骨組みがこれまた分厚い鉄で、ゆうに三百匁はあるとかいうそれを芹澤は片手で自在に操っていた――自分の刀以上に片時も手放さず人にも触れさせなかった代物であるから真偽のほどは定かでないが、かといってこんな時に改めて確かめてみる気も起きない。左之助は覆面を外すと顔にかかった血を拭い、すぐ隣の間でもう一人の男――腹心の平山を斬り終えたばかりの敬助に向き直って抗議した。
「女は逃がしとくはずじゃあなかったのかよ」
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